Column

営業の属人化は、
「書いてください」では解けない。

引き継ぎ書のフォーマットを配っても、埋まらないまま数ヶ月が経つ。これは本人が非協力的だからではありません。頭の中にある判断は、白紙を渡されても書けないからです。属人化の解消は、書かせることではなく、どこが人に依存しているかを外から特定することから始まります。

属人化しているかどうかの見分け方

「うちは属人化している」という感覚はあっても、どこが、と聞かれると答えにくいものです。次のうち3つ以上当てはまるなら、営業の周辺業務が特定の人に依存しています。

担当者が休むと、その案件が止まる 他の人が代わりに動けない。顧客への連絡すら誰もできない。
「次いつ連絡するか」が本人の頭にしかない どこにも書かれていないので、忘れられても誰も気づけない。
見積の条件を、社長か特定の1人しか判断できない 値引きの上限、納期の融通、支払条件。毎回その人に聞いている。
CRMの入力方法が人によって違う 案件名の付け方も確度の基準もバラバラで、集計しても使えない。
会議前に、毎回Excelで数字を作り直している 作り方を知っているのが1人だけ。その人が忙しいと会議が遅れる。
新しく入った人が、立ち上がるまで数ヶ月かかる 教える材料が無く、横について見せるしか方法がない。
ここで挙げているのは、いずれも「営業の前後にある事務」です。 商談の進め方やヒアリングの上手さといった営業スキルそのものは、属人化していて当然のものであり、無理に標準化するものではありません。解消すべきなのは、誰がやっても同じ結果になるはずなのに人に依存している部分だけです。

「引き継ぎ書を書いてください」が機能しない3つの理由

属人化の解消として最初に試されるのが、本人にマニュアルを書いてもらう方法です。ほとんどの場合、これは途中で止まります。能力や意欲の問題ではなく、依頼の仕方に無理があります。

Reason 01

本人にとっては、書くことが無い

毎日やっている作業は、本人の中では「考えずにできること」になっています。無意識でやっている判断は、思い出そうとしても出てきません。白紙に向かって書けるのは、自分が意識している部分だけです。属人化の中身は、たいてい意識されていない側にあります。

Reason 02

いま忙しい人にしか、頼めない

属人化しているということは、その人に業務が集中しているということです。最も時間がない人に、成果が出るのが数ヶ月先の作業を頼んでいる構図になります。目の前の商談が優先されるのは当然で、後回しになります。

Reason 03

例外が書かれないので、結局その人に聞くことになる

手順を書いても、「こういうときはどうするか」が抜けます。実務で詰まるのはほぼ例外の側なので、手順書があっても質問が発生します。質問が発生する手順書は、使われなくなります。

The point

書かせるのではなく、聞き出して、代わりに書く

属人化した業務を形にするときに効くのは、本人に書いてもらうのをやめることです。

やり方は逆で、外の人間が実際の作業を見ながら質問していきます。「この案件、なぜこの順番でやったんですか」「先週これは確認して、こっちは確認しなかったのはなぜですか」。本人が意識していない判断は、その場の具体例からしか出てきません。

聞き出した内容は、聞いた側が書きます。本人の作業は、質問に答えることだけになります。これなら、忙しい人からでも取り出せます。

属人化を解消する4つの手順

セコンドデスクが実際の棚卸しで使っている順番です。この手順は外注しなくても社内で実行できます。そのまま使っていただいて構いません。

業務を挙げて、頻度と件数を書く

まず、営業の周辺で発生している作業を全部並べます。このとき「どのくらいの頻度で、1回あたり何分か」を必ず数字で書きます。感覚で「よく発生する」と書くと、あとで優先順位がつけられません。

書き方の例 商談後のCRM入力/週12件/1件15分
見積書の作成/週4件/1件30分(うち標準構成が3件、特注が1件)
判断が入る箇所に印をつける

並べた業務のうち、「その人の判断が入っている箇所」を特定します。ここが属人化の本体です。作業自体は誰でもできても、判断があるせいで渡せなくなっています。

見積の作成なら、書式を埋める作業には判断がありません。値引きをどこまで認めるか、納期をどう答えるかに判断があります。1つの業務の中で、判断がある工程と無い工程を分けます。

判断を、条件と数字に置き換える

印をつけた判断を、「こうなったらこうする」の形に書き換えます。ここで「状況による」「ケースバイケース」で止めないことが重要です。止めた瞬間、その業務は永久に渡せなくなります。

コツは、過去の実例から聞くことです。「値引きの判断基準は?」ではなく、「直近で値引きを断ったのはどの案件ですか。なぜ断ったんですか」と聞きます。断った理由の方が、基準がはっきり出ます。

置き換えの例 ×「取引実績や関係性を見て柔軟に判断する」
○「10%までは担当者判断。それを超える/初回取引/納期2週間以内のいずれかに当たる場合は社長へ確認」
判断以外を渡し、1〜2週間並走する

条件に落とせた部分から、別の人に渡します。いきなり任せず、横で見ながらやってもらう期間を作ります。この期間に出る「迷った箇所」が、そのまま手順書の追加分になります。

並走が終わったら、「こうなったら確認する」という例外の一覧を作って渡し切ります。ここまでやると、日々の確認はほとんど不要になります。

全部を仕組み化しようとしない

属人化の解消を「営業のすべてを誰でもできるようにすること」と考えると、必ず失敗します。営業には、人に依存していて構わない部分があります。そこまで剥がそうとすると、現場が抵抗しますし、実際に品質が落ちます。

分けるべき境界は、「判断」と「処理」です。判断は社内に残し、処理だけを外に出せる形にします。

社内に残すもの

Keep — 人に依存していて構わない

  • 商談での提案内容とヒアリング
  • 価格・値引き・与信の決定
  • 顧客との関係性にもとづく判断
  • クレーム対応の方針
  • 受注可否の最終判断

手順にして渡せるもの

Move — 誰がやっても同じ結果になるはず

  • 商談後のCRM・SFA入力
  • 次回対応タスクの登録と期限設定
  • 見積書の定型部分の作成と承認依頼
  • 日程調整とリマインド
  • 案件一覧・停滞案件・会議用数字の集計
右側が渡せる形になっていると、左側に時間を戻せます。 属人化の解消でいちばん効くのは、判断できる人が判断だけをやっている状態を作ることです。判断できる人が入力や集計に時間を使っているのが、いまいちばん高くついている部分です。

社内でやるか、外に出すか

上の4手順は、社内で実行できます。判断の目安は「聞き出して書く役を、社内で誰かに割り当てられるか」です。作業自体は難しくありませんが、実際の業務を見ながら聞く必要があるため、片手間だと止まります。

すでに引き継ぎ書の作成が数ヶ月止まっている場合、同じ人にもう一度頼んでも結果は変わりません。止まった理由が「時間がない」なら、時間を作る以外の方法が必要です。

どの業務なら外に出せて、どれは整理が先かは、外注できる業務のチェックで確認できます。8問・30秒で、頻度・手順・判断・オンライン完結の4条件から判定します。この4条件は、上の手順2と手順3をそのまま質問にしたものです。

どこが人に依存しているかを、
一緒に見ます

30分だけお時間をください。業務を挙げて、判断が入っている箇所に印をつけるところまでをその場でやります。外注が不要と判断したら、そうお伝えします。

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